インタビュアー(以下、I):
ディレクター歴が6年ということですが、初めからディレクターとしてやっていたのですか?

森 理恵子 ディレクター(以下、森):
初めのうちは兼務していました。2年目ぐらいから製作一本で他のことも色々やっていました。番組を作るっていうことは初めからです。

I :
SFロックステーション木曜日のSTAFFの方は、森さんの他にはどのような方たちがいらしたのですか?

森 :
アルバイトで手伝ってもらっている磯部さんていう女の子が一人だけです。生放送だとミキサーやアシスタントディレクターみたいのも別につくんですけれど、SFロックステーションは録音でやってますから、ミキシングも私がやっているということです。

I :
担当が決まったときには、岡村クンのことは知ってましたか?

森 :
私が受け持つことが決まったときには渡辺美里ちゃんの “Long Night” だとか吉川クンの曲を作曲してる子だという程度しかきいてませんでした。それと彼がレコード会社に送ったというデモテープを聴いただけです。

I :
どう思いましたか?

森 :
初めっから才能のある子だからって、関わり合っている人がみんなそう認めていたので、こいつは凄いというふうでした。 初めから折り紙付きだったんです。

I :
実際会ってみてみてどうでしたか?

森 :
けもののような子だなと思いました。(笑)触れるとなんか、かみつくんじゃないかっていうか(笑)攻撃的なんじゃなくて、何となく傷付くのが怖いっていう感じもあるし、かといって消極的な感じでもないわけ。どっちかっていうとアブナイヤツだな(笑)っていう感じ。色々な雑誌なんかによくそういうふうに書いてません? “Yellow 危険信号” みたいな感じでね。だけど、彼は確かに美里ちゃんなんかに言わせると変わってるってやっぱり。

I :
最近はどうなんですか?

森 :
最近はイベントなんかいっぱいこなして変わったっていう感じだけど。言ってみればレコード会社とか事務所(ハートランド)だとか大勢の人間がいて、そこでアーティストとして自分は仕事をするというね。下積みなんて全く無い、何の前触れもなく一つの社会の中へ初めて出たわけでしょう。まあ作曲をしていたという関わりはあっただろうけどもね。

それから最近は、営業用のスマイルを覚えてやたらニコニコするんですよ。(笑)初対面の人とか、レコード会社の人とかに。自分のことに関わりがいのある人だと思うとニコニコしちゃって。(笑)彼はそういうテクニックを身に付けたようですね。

I :
社会にもまれたりしますからね。

森 :
そうですね。年上の人とか周りにいっぱいいるし。彼の周りにはとてもいいスタッフがいらっしゃるんじゃないかしら。レコーディングスタッフとか色々。

ガールフレンドが欲しいって言ってるけど、それ難しいんじゃないかな。(笑)よっぽど岡村くんのことが好きで、尽くさないと。でもあんまり尽くしても鬱陶しがるし、かといって自分のことを一時でも忘れると許さないっていうタイプだと思いますよ。寂しがりやだし。

自分からついていくタイプでは絶対ないでしょう。周りにいる人がこうしようと働きかけると、それはいいねとかそれは悪いとかヤダとかそういう反応はするけども、通常自分の方から踏み込んでいく姿勢をあんまり見たことがないのでね。そうすればガールフレンドもできるんじゃない?要するに傷つくのが怖いんじゃないかと。

I :
ではDJとしては、どうだったと思いますか?

森 :
DJとしてね。けっこうおもしろいと思いましたよ、私は。所謂DJ喋りとかいう勢いのついたのじゃないんだけど、結構ラジオにかじりついて聴いちゃうみたいなおもしろさはありました。

ただ彼のいけないところは、素通りしちゃうのね。例えばファンの子がたくさんの枚数だとか色々な思いを込めて書いてきてくれるんだけれども、それをね、もちろんとても喜んで読むんだ、あの子手紙ホント好きだし、でも番組でそれを紹介しようというともう自分は一通り読んでいるわけだから想いは自分の中に飲み込んでいるわけ。で、いざそれを言葉にして出そうとすると、もう分かってるからいいやっていうふうで結構答えなかったりしちゃうんだと思うのね。きっと聴いてる方ではやっぱり物足りないだろうし、聴く人によっては冷たいと感じるかもしれない。まあB型だから。私もB型だけど、結構自分の世界に閉じこもるタイプだからね。(笑)

それからね、なかなか残念だったのは、もっといろんな話をしたかったし、彼の心に踏み込むことができたらよかったなと思ったけどなかなかできなかったのね。結構肩すかしくらったりするし。あくまでも、本当におねーさんというか・・・。

おねーさんて言えばね、おばさんっていう言葉とおねーさんっていう言葉を上手に使い分けるんだ。(笑)何かお願いする時は『おねーさん』って言ってね、あとはね『おばさん何言ってんの』とか言って。

I :
番組中にも聞いたことありますよ。『ディレクターのおねーさんが何か言ってます』みたいに。

森 :
そうそう、またうるさそうに聞くんだ。(笑)何か言うと『あー?』とか言って。でももう慣れましたけどね。

I :
番組に送られてくる手紙の量はどうでしたか?

森 :
他の曜日と比べると差ができるっていうのは新人だからあるけど、1つの番組として決して少なくなかったし、多かったですよ。

I :
番組で読む手紙は誰が選んでいたのですか?

森 :
自分で選んでましたよ。私たちも初めのうちは全部目を通してましたけど、岡村クンはとにかく全部目を通してましたから。

I :
何かエピソードとかありますか?

森 :
そーねー。私とさっき言ったアルバイトの女の子2人で何かあげようということで、何が欲しい?って聞いたら、彼、パソコンに凝ってるでしょ。で、うちの局のレコード室になかなかいいパソコンが2台置いてあるんです。それを見ていて『あのパソコンが欲しい』とか言って。(笑)『あのねー!あれは会社の備品なの!』(笑)とか言ったら『盗んでもいい?』だって。あれには参った。

・・・で、結局何をあげたかっていうと、立派な社会人になってくださいという意味を込めて(笑)ネクタイを。 彼は到底しないだろうというような。(笑)

I :
そういえが、スーツを着ている岡村クンて見たことないですね。

森 :
ないでしょう?でもすごく似合うと思うのね、あの子。背もあるし、着てるコートなんかでもモデルサイズをそのまま着てるっていうし。あれはなかなかないんじゃない?要するにファッションショーにモデルが着ているものをそのまま着られるっていうのは、女の子に置き換えたら相当すごいんじゃないですかね。ネクタイなんかキリッと締めて欲しいわ、とかって思う。だからシャレの意味も込めて。ちょっとパソコンは無理だったのでね。

I :
あのパソコンが欲しいなんてねえ。

森 :
だからね、すごくかわいいの。かわいいって言うとまるでおばさんになっちゃうんだけど。(笑)

I :
でも私達から見てもそう思いますよ。

森 :
でしょう。あれはね、やっぱり女の子が放っとけないタイプなんだって。だからあの子のガールフレンドになる子は我慢強くないと。で、ここっていうときに、ちゃんとそばにいないと『愛が無いんじゃない?』って一言で言われてしまう。(笑)だからそういう魅力があるね。なかなか普通にはない。だって今のってあんまり現実に最近の男の子にないパターンでしょ。

あの、ナンパしたい、されたいなんて言ってるけど、そういうタイプじゃ全然ないね。出来ないからこそああやって言ってるんだと思う。今のは can't っていう意味じゃないけど。ナンパは本当はしたくないっていうのじゃないかな。軽くなりたいっていっても根っこの部分は信頼できるものを求めているし。自分の好きな音楽に関しても、女の子に関しても、人に関しても、何か岡村クンが選ぶときは本物かニセ物かっていうのをちゃんと見分ける感覚は持っているなと思ったね。本物が好きみたい。ま、当たり前なんだけども、その辺に凄い可能性はあるなーと思うんだけど。

I :
結構鋭いご指摘ですね。

森 :
分かりませんけどね。彼のことは彼にしか分からないでしょう。これからどんどん変わるだろうしね。まーつかみどころがないんじゃないかな。一人の人とずーっと長くそこに留まるっていうタイプじゃないような気がするなー。本当は、留まりたいんだろうけど・・・。自分の世界をある程度持っているからじゃないかな・・・と思うけど。

まあ、頑張って欲しいなと思っています。

 

SFロックステーション スペシャル : Interview Part.1 with 岡村靖幸 へ